書き溜めなし



地の文あり



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デビューしてから3年が経って私はトップアイドルになった。

あの人に褒めてもらいたい、それだけで頑張れた。



P「おめでとう、まゆ。」



まゆ「ありがとうございます。」



まゆ「やっと、ここまで来れたんですね。」



P「3年も掛かってしまったな。」



P「本当なら去年、この栄光を贈れるはずだった。」



まゆ「大丈夫ですよ、今こうして居られるだけで幸せですから。」



嘘を付いた。

3年という時間は長く、小さいながらも変化を与えていた。

それは確実に心に亀裂を生み、やがて崩れる様な。

私は高校を卒業し、大学に入った。

大学からは一人称も変えた。

勉強もPさんが教えてくれる。

解らないフリをして、些細な変化をして、気付いてほしかった。



P「これからも、頑張っていこう。」



P「未来まで届くくらいに大きくなろう。」



まゆ「・・・・・・はい」ポロポロ



P「ありがとう」



そっと抱きしめてくれた。

私もPさんも互いに静かに泣いていた。

涙はトップアイドルに成れた嬉しさからでは無かった。



まゆ「Pさん、約束覚えていますか?」



P「忘れるわけが無いだろう。」



まゆ「なら・・・・・・結婚してくれるんですか?」



P「・・・・・・・もちろんさ。」

P「さぁ、行こうか。」



P「早くしないと予約に間に合わなくなる。」



そう言って少し強引に手を引かれて車に乗り込んだ。

車の中では熱が冷めず、終止無言でPさんの顔を見つめてた。



P「ここだな。」



お店はホテルの最上階、個室の夜景が綺麗なレストランだった。



P「こんな所で食事が出来るのもまゆのおかげだな。」



まゆ「二人で頑張って来たからですよ。」



まゆ「そして、これからも。」

P「そう・・・・・・・だな。」



まゆ「ふふ、プロデュースお願いしますね。」



P「もちろんさ。」



P「・・・・・・少しトイレに行って来るよ。」



まゆ「煙草ならここで吸えばいいじゃないですか。」



P「しかしだな。」



まゆ「このお店は禁煙じゃないみたいですよ。」



P「そう言うなら。」



煙草を吸うPさんは苦手だ。

申し訳なさそうな顔で私を見る。

本当は少しでも傍に居たいだけなのに。

常に私に気を使っている。

P「アイドルの前で吸うのもなぁ。」



まゆ「なら辞めれば良いじゃないですか。」



P「こればっかりはなぁ。」



煙草も偉い人に合わせて吸っている。

喫煙所での会話も交渉の内だと分かっていても嫌になる。



P「前菜が来たみたいだな。」



慇懃な白髪の男性がノックと共に汗を掻いた飲み物と料理を持ってやってきた。



P「食べようか。」



こじんまりとした野菜の上にソースが掛けられまるで宝石の様だった。

まゆ「美味しそうですね。」



P「そうだな。」



ただただ優しい顔で私を見つめるPさんはどこか悲しげだった。

またノックの音がしてワインが運ばれてきた。



P「なら、これで。」



Pさんはワゴンに乗せられた数種類のワインからカリフォルニアのワインを選んでいた。



P「これがまゆの生まれた年に近くてな。」



そう言うPさんの顔は照れ臭そうに笑っていて、とても暖かかった。



まゆ「本当にそれで良いんですか?」



P「ワインの良し悪しなんて分からないよ。」



P「それよりもこの日に合った方が良い。」

前菜は量も少なく食べきるのに時間は掛からなかった。



P「次はガスパチョだな。」



まゆ「ガスパチョですか?」



P「スペインの冷スープだよ、それ以上は知らん。」



まゆ「冷たいスープなんて初めて食べます。」



P「接待とかでしか食べる機会ないもんなぁ。」



P「ちひろさんなら毎日こんな料理食べてそうだけど。」



まゆ「あんまり人のことは言っちゃダメですよ。」



他愛も無い会話の後に料理が運ばれてきた。



まゆ「これがガスパチョですか。」

トマトや色々な野菜の入ったスープだ。



P「フレンチなのに何でスペイン料理なんだ。」



まゆ「細かいことは無しですよ。」



P「それもそうだな。」



そっと会話の最中に起用にピーマンだけ寄せている。



まゆ「Pさん、好き嫌いはダメですよ。」



P「・・・・・・・分かってるよ。」



段々緊張もほぐれて、いつもの少し子供っぽいPさんに戻ってきた。

母性本能を擽られる、とは行かないものの愛おしく感じる。



P「まゆは良い奥さんになりそうだ。」

まゆ「・・・・・・・うふ。」



P「弁当にピーマンを入れるのもどうにかしてくれないか?」



まゆ「ダメですよぉ。」



まゆ「これからもちゃんと工夫して入れますから。」



P「感謝してるけど、どうにも慣れなくてな。」



まゆ「私も出来れば入れたくないんです。」



まゆ「でも、そこまで拒まれると意地になっちゃいます。」



P「・・・・・・次は魚料理だぞ。」



まゆ「はぁい。」



こんな会話が嬉しい。

こんな時間がずっと続いてほしい。



いつの間にか空になった皿を取り下げ、魚料理が運ばれてきた。



P「タラのムニエルにソースを掛けたモノかな。」



まゆ「タラは嫌いですか?」



P「何の魚か気になって。」



まゆ「料理の説明でも頼みますか?」



P「いや、いいよ。」



P「どうにもメニューがないからな。」



P「こういう所の料理は名前が長くて覚えにくい。」



まゆ「なら、なおさら。」



P「わざわざ無しにしたんだ。」



P「今日くらい特に考えずに食事したい。」



まゆ「そうですか。」

P「何だか言っている事がおかしいな。」



P「まゆの記念日だってのに。」



まゆ「私のことを思ってくるだけで嬉しいんですよ。」



P「・・・・・・・そうか。」



また、この顔をする。



まゆ「Pさん、本当の事を言っても良いんですよ。」



P「本当の事?」



まゆ「約束のことです。」



一瞬、時が止まったように感じた。



P「そのことは後からでもゆっくりと。」



まゆ「嫌です。」



P「・・・・・・・まゆ。」



まゆ「嫌です。」 

まゆ「Pさんはいつも優しいです。」



まゆ「だから、本当の気持ちが分からなくなるんです。」



P「優しくしていたつもりは無かった。」



P「レッスンも厳しくしていたし、勉強だって。」



まゆ「それが、優しいんです。」



まゆ「第一にまゆのことを考えて行動している。」



まゆ「その事が何よりも優しくて、だから分からなくなるんです。」



まゆ「Pさんのわがままを一度も私は聞いたこと有りません。」



P「次の料理が来る。」



はぐらかす様に視線を移し目を合わせ様としない。

料理が運ばれて来るまで無言だった。



P「メインだ、仙台牛のステーキみたいだな。」



まゆ「話を聞いてください。」



まゆ「嫌です、もう待つのは嫌なんです。」



自分の顔が分からない。

泣いているかも知れない、怒っているかも知れない、笑っているかも知れない。

でも、不思議と悲しくは無かった。」



P「・・・・・・一つ謝らないといけないことがある。」



P「ちゃんと、聞いてくれ。」



P「去年、まゆは29位だった。」



まゆ「はい。」



P「これは俺の責任だ。」



まゆ「それは違います。」



まゆ「私の頑張りが足りなかったから。」

P「それは違う。」



P「あの時、約束を思い出して焦っていたんだ。」



P「このまま果たされたら今後の活動は、進路は、名声は。」



P「そんな自分勝手な思いでわざと仕事を減らしたりしていた。」



まゆ「・・・・・・・Pさん。」



P「結局、理想を押し付けていたんだ。」



P「これからもこのまま歩んで行きたいと。」



まゆ「そう・・・・・ですか。」



分かっていた。

この答えが来ることは分かっていた。

なのに急かす様なことをした。



まゆ「大丈夫ですよ、私はこのままでも。」



まゆ「だって、やっとわがままを聞けたんですから。」



まゆ「それだけで十分です。」

まゆ「もう十分頑張ってます。」



まゆ「まゆは頑張れます。Pさんが褒めてくれれば。」



P「まゆだって十分に頑張っているさ。」



P「ただ、ここで足を止めたくないんだ。」



まゆ「わがままですね。」



まゆ「足は止めたくないのに頑張るな、と。」



P「わがまま・・・・・・か。」



まゆ「そうです。」



P「そうか・・・・・なら、もう一つわがままを言わせてくれ。」



P「結婚しよう。」

まゆ「え。」



P「そうだ、その顔が見たかったんだ。」



まゆ「Pさん。」



P「ごめんな、まゆ。」



P「少し困らせてみたかったんだ。」



まゆ「・・・・・・本当に意地悪ですね。」



まゆ「なら、さっき言ったことも嘘ですか?」



P「いや、本当だ。」



まゆ「なら何故・・・・・・」



P「進んでいた気持ちはある、もっと先へ。」



P「でも、それにはまゆが隣に居なきゃいけないんだ。」



P「一緒に、同じ歩幅で歩んで行きたいんだ。」

P「わがままか?」



まゆ「ええ、とっても。」



P「でも約束してくれよ、子供はまだ先だからな。」



まゆ「はい。」



P「大学だってちゃんと卒業しろ。」



まゆ「はい。」



P「他にも色々あるが・・・・・・二人で決めていこう。」



まゆ「はい。」



P「今日はわがままばかり言っているな。」



まゆ「ふふ・・・・・・そうですね。」



P「せっかくの料理が冷める、早く食べよう。」

まゆ「・・・・・・・そうですね。」



まゆ「一つだけ、私からわがままを言わせてください。」



まゆ「まゆの傍に。」



まゆ「まゆを、幸せにしてくれますか。」



P「ああ、誰にも幸せに出来ないくらい幸せにしてやる。」



まゆ「うふ・・・・・・・ありがとうございます。」



ロマンチストでわがままで。

子供みたいに無邪気で真っ直ぐなPさんを好きになって。

傍に居るだけで幸せで、でもそれじゃ物足りなくなって。

わがままを言う私を気に掛けて。

笑顔で前が見えない私をそっと慰めてくれる。

そんなあなたが大好きで。



最後のデザートはちょっぴりしょっぱくて、とても甘かった。





時は流れて、もうどれだけの日々を重ねただろう。

子供も出来て、孫も出来て。

嫁に出すときに散々泣いて。



「Pさん、聞こえますか。」



「・・・・・・久しぶりだな、そう呼ばれるのも。」



二本で立っていられたのが四本になって。

互いに少しずつ進んできた。



「今日はちひろさんも来てくれるそうですよ、凛ちゃんも、皆。」



「年を取っても元気な奴らだな。」



「それはPさんもですよ。」



「そうだな、ここまでやって来れた。」



「ありがとう、まゆ。」



「まゆは幸せだったか。」



それを最後に、もう声を聞くことはなかった。

四本が二本になってもあなたから貰った沢山の足が支えてくれる、傍に居てくれる。

思い出は、道を示してくれる。

小指の赤い糸は途切れることは無いのだから。