ある日の朝





P「zzz」



??「……さん。……さん」



P「……ん、んん」



??「朝です……Pさん」



P「ん……ふわ〜あ」



P「ああ……起こしてくれたのか、文香さん」



文香「今日も朝からお仕事だと聞いていたので……」



P「うん、ありがとう……はあ、いまだにたまに寝坊しそうになる癖、早く治さないとな」



文香「この家で暮らしている間は……私が、起こしてあげますから」



P「でも、俺も社会人になって結構経つし。いい加減、自立しないと」





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P父「おはよう。また文香ちゃんに起こしてもらったのか」



P「おはよう。その通りだよ」



文香「朝ご飯……できてますから。……いただきましょうか」



P「ああ、そうしようか」



父「朝起こしてもらってご飯も作ってもらって、どっちが社会人なのかわからなくなるな」



P「ははは、まったくだ」



P「俺もそのうち独り暮らしできるように、ちゃんとしないとなあ」



父「そうだな。文香ちゃんが大学を卒業する頃には、お前もこの家を卒業するくらいで」



P母「P、あんたも手伝いなさい」



文香「Pさん……お茶碗、運んでもらえますか……」



P「あ、はーい」



P「箸も運んでおくよ」



文香「お願いします……」



P「(鷺沢文香さん、19歳。大学入学を機に上京し、叔父叔母の家に下宿中の女の子)」



P「(その叔父叔母というのが、俺にとっては両親にあたるわけで……つまり俺と彼女は従兄妹の関係になる)」



P「(歳はひとつしか違わないが、俺は高卒で就職したので社会的な立場は結構違う)」



P「それじゃ、いってきます」



母「いってらっしゃい」



文香「大学の講義が終わったら……私も事務所に向かいます」



P「うん、頼む」





P「(子どものころは、たまに家に遊びに来る親戚の女の子)」



P「(そして今は、俺がスカウトしたアイドルのひとり)」



P「(それが、俺にとっての文香さんだ)」



事務所にて





凛「ねえ、プロデューサー」



P「凛か。どうかしたのか」



凛「急ぎの用事とかじゃないんだけど、ちょっと聞きたいことがあって」



凛「プロデューサーと文香さん、親戚なんだよね?」



P「ああ、従兄妹の間柄だ。小さい時から時々一緒に遊んでたな」



奈緒「その割には、なんか他人行儀なところがないか?」



加蓮「小さい頃から仲良しなら、もっとこう……ね?」



P「二人も同じこと聞きに来たのか」



P「そんなに他人行儀かな」



加蓮「だって、呼び方がなんかあれだし。Pさんに文香さんでしょ」



凛「小さい頃からさん付けだったわけじゃなさそうだし」



P「まあ、それはそうだけど」



奈緒「昔はなんて呼んでたんだ?」



P「やけに食いついてくるな」



加蓮「この年の女の子は、男女の関係に興味津々なんだよ」



奈緒「あ、あたしはそういうんじゃなくて、二人がどうしても知りたいって言うから」



凛「それで、小さい頃の呼び方はなんだったの?」



P「………」



P「秘密」



加蓮「えー、なんで?」



P「君らに教えると、面白がって文香さんにその呼び方を使いそうだからな」



P「多分彼女が恥ずかしがるだろうから、教えない」



加蓮「けちー」



凛「使おうとしていたことは否定しないんだ」



文香「おはようございます……」ガチャ



文香「……なにか、ありましたか?」



凛「文香さん」



加蓮「小さい頃、プロデューサーになんて呼ばれてたの?」



P「俺から聞き出せないとわかるや標的を変えたな」



奈緒「まったく、ふたりとも……」



文香「小さい頃、ですか…?」



文香「………」



文香「………」ポッ



文香「すみません……ヒミツ、ということで」



加蓮「あ……そ、そうなんだ。じゃあいいよ」キュン



凛「う、うん」ズキューン





奈緒「あれ、あっさり引き下がった」



P「あまりに純真な反応にやられたようだな」





別の日





文香「………」ペラ



文香「………ふう」



文香「(ちょっと集中して読み過ぎたかな……頭が疲れたから、甘い物でも)」



P「ほい、飴」



文香「あ……ありがとうございます」



文香「(……おいしい)」モキュモキュ



杏「プロデューサー、杏にもちょーだいー」



P「ああ、たくさんあるからレッスンも頑張ろうな」



杏「えー、しょうがないなあ」



P「ふう……デスクワークは疲れる」



P「(喉渇いたな……すっきりする炭酸でも飲みたい)」



文香「Pさん……これ、どうぞ」



P「お、コーラじゃないか。買ってきてくれたのか」



文香「コンビニに寄ってきたので……」



P「ありがとう」







蘭子「………」



蘭子「共鳴し合う連理の魂!(息ぴったりですね!)」



P・文香「?」



未央「ふんぬっ……!」グググ



P「ほいっ」グン



パタン



未央「あー、また負けた」



P「懲りないな。腕相撲だと俺の有利は揺るがないぞ」



未央「私も日々のレッスンで身体鍛えてるんだけどなあ」



P「とはいえ、俺は大人の男だからな。女の子には負けんぞ、HAHAHA」



未央「なーんかむかつく笑い方」



未央「こうなったら、誰か助っ人を呼ぶとしよう……えっと、今暇そうなのは」



文香「………」ペラ



未央「おっ、ふーみん発見!」



文香「?」



未央「お願い、プロデューサーと腕相撲してくれないかな」



文香「腕相撲……ですか」



P「おいおい、こう言っちゃなんだがインテリ系女子では俺の相手にはならないぞ」



文香「………」



未央「よーし、じゃあ審判は私がやるね」



未央「両者、かまえて!」



P「じゃあ文香さん、よろしく」



文香「はい……」





文香「……あの、Pさん」



P「うん?」



文香「忘れているのかもしれませんが……」



文香「私……Pさんに、腕相撲で負けたこと……ないと思います」



P「え」



未央「レディー、ゴー!」



グググ……!!



P「うおっ!?」



文香「………」グググッ



P「な、ちょ、力つよっ」



P「(お、思い出した! 文香さんと腕相撲なんて小学生以来だけど、確かに一回も勝ったことがない)」



P「(し、しかし、子どもの頃からは何年も経ってるんだぞ。今になってもまだ押し負けるというのかっ)」



未央「おおっ、この細い腕のどこにそんな力が眠っているのか! ふーみん優勢だ!」



P「(そういえば、古書が山ほど詰まった段ボール箱とか余裕で運んでたような……)」



P「ま、負けるのか……俺が? 年下の女の子に?」



P「そんなバカなことが……!?」



文香「……(Pさん、この世の終わりのような表情してる)」



文香「………」



P「! (力が緩んだ、今だっ)」



ググッ、パタン



未央「あー、負けちゃった。もう少しだったのに」



文香「すみません……スタミナが、持ちませんでした……」



P「や、やった! 俺の勝ちだよっしゃー!」



文香「………」



文香「ふふっ」



未央「(おー、ふーみんの自然な笑顔。結構レアだよ)」



P「ははは、やはり腕相撲は男だな」



P「そう簡単に女の子には負けん――」





真奈美「おや、腕相撲をやっているのか」



きらり「きらりも混ぜてほしいにぃ!」



P「えっ」







P「ああああっ! 痛い痛いっ」





未央「いやー、上には上がいるもので」



文香「楽しそうで、なによりです……」



自宅にて





P「あぁー、うーん」モミモミ



文香「……肩、凝っているみたいですね」



P「うん。今日はいろいろ物を運んだりもしたし」



文香「……揉みましょうか?」



P「いいのか?」



文香「はい……いつも、お世話になっていますから……」



P「いやいや、世話になってるのは俺のほうだし」



文香「そんなことありません……揉んであげます」



P「……そこまで言ってくれるなら、お願いしようかな」



文香「……どうですか」モミモミ



P「うん、いい感じ。気持ちいいよ」



文香「そうですか……」モミモミ



P「文香さん、マッサージの才能あるかも」



文香「ありがとうございます……」





母「あ、いたいた。P、あんたの部屋散らかってたから掃除しといたよ」



母「エッチな本を床に置きっぱなしにしとくのはやめときなさいよ」



P「はーい」



母「あんた、おっぱい小さくて活発な子が好きなんだね」



P「って、中身見たのかよ!」



母「さて、夕飯の準備準備っと」



P「ったく、母さんめ」



文香「………」



ゴリッ、ゴリッ



P「いてっ!? ちょ、文香さん痛い!」



文香「あ……すみません。少し、力を入れすぎました……」



事務所にて





文香「………」ペラ





凛「文香さんって、すごい集中して本読むよね」



未央「たまに声かけても反応しない時があるよね」



P「昔からだよ。本が好きすぎて、ついつい自分の世界にのめりこんでしまうらしい」



P「熱中モードに入ってる間は外界をシャットアウトするんだ。無理やり本を離そうとしてもすごい力で引っ張られる」



凛「読書への意地って感じがする」



未央「じゃあ、熱中モードが解けるまで待つしかないってこと?」





P「いや、効果的な方法がひとつある」



未央「なになに?」



P「耳だ」



凛「耳?」



P「文香さんは耳が弱いから、息を吹きかけるとすぐに集中力が途切れる」



凛「……プロデューサー。それ、セクハラじゃない?」



P「やってたのは小さい頃の話だよ。今やったら確かにセクハラだからな」







文香「………」



文香「(してくれてもいいのに……)」



とある休日の朝





P「おはよう……」ボー



父「もう11時だぞ。寝過ぎじゃないのか」



P「休みだし、別にいいじゃない」



P「母さんと文香さんは?」



父「母さんは近所の奥様達とお出かけ中。文香ちゃんは書庫の整理を手伝ってくれているところだ」



P「そっか。文香さんは働き者だなあ」



父「アイドルを始めてからも店の手伝いを続けてくれているからな。ありがたいことだ」



P「だな……」



P「父さん。俺もたまには手伝おうか」



父「別に気を遣わなくてもいいんだぞ。お前は普段プロデューサーの仕事を頑張っているんだから」



P「今日は暇だし、たまには親孝行させてよ」



父「P……」



父「そんなこと言って、実は文香ちゃんと一緒にいたいだけじゃないのか」



P「あ、バレた?」



父「何年お前の父親やってると思っているんだ。そんな殊勝なことをいきなり言い出す奴じゃないことくらいは知ってる」



P「まあ、動機はいいじゃないか。俺も書庫に行ってくるよ」



書庫にて





文香「Pさん……お仕事の疲れ、とらなくてもいいんですか?」



P「平気平気。先週は結構仕事が楽だったから」



P「みんな、アイドルの勝手がわかってきて、なにからなにまで俺がやる必要なくなってるし」



文香「そうですか……」



P「もちろん、文香さんもよくやってくれてるよ」



文香「あ……ありがとうございます」



P「この部屋、昼でも明かりつけないと暗いんだよなあ」



文香「そうですね……」



P「覚えてる? 子どもの頃、近所の友達と一緒にかくれんぼした時のこと」



文香「ん……あ、はい……思い出しました」



P「懐かしいなあ。ふたりでここに一緒に隠れたら、部屋が暗くて文香さんが泣きだしちゃったんだよな」



文香「……え?」



文香「あの……確かに私は泣いちゃいましたけど」



文香「先に泣きだしたのは、Pさんですよ……?」



P「え、嘘だろ」



文香「本当です……ちゃんと、覚えていますから」



P「いやいや。百歩譲って俺が泣いていたとしても、絶対文香さんの後だって」



文香「先です」



P「後」



文香「先」



P「後だって。絶対ふみちゃんのほうが先に泣いてた」



文香「いえ、Pくんが先に……」



P「………」



文香「………」



P「はははっ。俺達、まだまだ子どもだな。くだらないことで言い争えるんだから」



文香「……そうですね」フフッ



P「というか、久しぶりに昔の呼び方使ったなあ」



P「ふみちゃん、か」



文香「今呼ばれると、なんとなく恥ずかしいです……」



P「ふみちゃんふみちゃんふみちゃん」



文香「もう……いじわる」



P「冗談だよ。ちょっと童心に帰っただけ」



文香「いつも割と少年の心を失っていないと思いますけど……」



P「そうかな」



文香「はい……でも、それがPくんの良いところだと思うので」



文香「……私も、昔の呼び方に戻ってしまっていますね」



P「なんか、昔の話してたらいろいろ思い出してきたな」



P「確か俺、ふみちゃんに告白されたことあったよな」



文香「……そう、でしたね」



P「『Pくんのこと、おむこさんにしてあげるー!(裏声)』って感じだったか」



文香「そんな変な声、出してません……」ムー



P「さすがに声真似は厳しかった」



P「でも、子どもの頃ってとんでもない約束してたりするよなー」



P「結婚なんて気が早すぎる」ハハハ



文香「………」





文香「私は……今でも、結構本気だったり……」ボソッ



P「………」



P「え、なんだって?」



文香「……なんでも、ないです」フルフル



P「そうか」



しばらく後





P「ふう。だいぶ整理が進んだな」



P「文香さんのほうは……あれ、いない」



文香「Pさん」



P「あ。どこか行ってたのか?」



文香「はい……おにぎりを、握ってきました」



P「おお、ちょうど小腹がすいてたんだ。ありがとう」







P「いつもながら文香さんの握るおにぎりはうまいな」ムシャムシャ



文香「そう言ってもらえると、うれしいです……」



P「……ああ、そうそう」



文香「?」



P「さっきの言葉だけどさ、そのうちはっきりとした答えは出す」



P「俺はふみちゃんのこと、すごく魅力的だと思ってる……けど、まずはトップアイドルの世界を君に見せたいから」



文香「……あ」



文香「き、聞こえていたんですか……さっきの」



P「考えを整理する時間が欲しかったから、聞こえないふりしてた」



文香「……ずるいです」



P「ごめん」



文香「………」



文香「わかりました……許します」



文香「そのかわり……お願いをしても、いいでしょうか」



P「お願い?」



文香「はい」





文香「私の物語を紡ぐページ……最後まで、一緒に……探してください」



P「……わかった。もちろんだ」



文香「よろしくお願いします……Pくん」







おしまい



おまけ





P「zzz」



文香「Pくん。朝です……」



文香「!?」



P「ん……ああ、文香さん。おはよう」



P「……どうしたの。顔真っ赤にして」



文香「な、なんでもないです……あ、朝ご飯、できているので」



文香「先に、行ってます……!」タタタッ



P「?」



P「いったいどうしたんだ……まあいいや、起きよう」



P「……ん? なにやら股間に違和感が」



P「あ」





p「ようダンナ」



P「……テント張るだけに飽き足らず、噴水を漏らしやがったな」



P「そりゃあ、こんなの見たらふみちゃんも驚くわ」



P「夢精なんて久しぶりだ……」



文香「……あの。おばさま」



母「おはよう文香ちゃん。どうかしたの?」



文香「……男の人がテントを張って噴水を出すのは、欲求不満の証なのでしょうか……」



母「??」





おまけおわり