※空母の区分に関しては艦これのゲーム内のものに従っています



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1435334482



−−−執務室−−−



提督「……」カリカリ



瑞鶴「……」カリカリ



提督「なあ瑞鶴」カリカリ



瑞鶴「提督さん,なに?」カリカリ



提督「お前は玉子焼きが好きか?」ピタッ



瑞鶴「特に好きでも嫌いでもないけど,どうしたの?」カリピタッ



提督「いや,なんとなくな。嫌いでないのなら聞くが,甘いのとしょっぱいのではどっちが好きだ?」



瑞鶴「そうね,しょっぱいやつかしらね。本当にどうしたの? 私に作ってほしいの?」



提督「だから何でもないって。そもそもお前には俺好みの玉子焼きは作れないだろう」





瑞鶴「ちょっとそれどういう意味よ? あんなの誰が作っても同じでしょう?」



提督「お前は何も分かっていないな。本当に美味しい卵焼きを作るのには相当の技術がいるし,作る人によっても味が全然違う」



提督「俺好みの玉子焼きを作れるのは嫁の瑞鳳だけだ」



瑞鶴「え,何を言っているの?瑞鳳とケッコンしているわけでもないし,まだ改にすらなれていないじゃない。そもそも可愛い妹を提督さんなんかの嫁には出せないわよ」



提督「お前こそ何を寝ぼけたことを言っているんだ? というか瑞鳳が妹ってどういうことだ」



瑞鶴「瑞鳳は翔鶴型3番艦の正規空母。私の妹よ?」



提督「すまないが何を言っているのかさっぱりだ。瑞鳳は祥鳳型2番艦の軽空母だろ? そもそも瑞鳳は翔鶴型より進水日が先だから,どちらかと言うと姉じゃないのか?」



瑞鶴「昔のことにこだわるとハゲるわよ。あっ……もうハゲだったわね」



提督「俺はハゲじゃない」



瑞鶴「そんなこと言っても,いつも帽子をかぶっているから分からないじゃない。室内でくらい帽子を脱いだらどうなの?」



提督「これは俺のファッションなんだ。口出しするな」



翔鶴「瑞鶴,そんなことはどうでもいいのよ」マドガラッ





提督瑞鶴「翔鶴(ねぇ)!?」



翔鶴「瑞鳳は私達の妹です。ここは譲れません」ヨジヨジ



提督「お前,加賀に怒られるぞ。それとパンツ見えてる」



翔鶴「見えてしまったのなら,目線を外すのがマナーというものではないのですか?」



提督「執務室へ窓から入るようなやつにマナーが云々とか言われるとは心外だな」



翔鶴「まあ話を戻しましょう。もう一度言いますが瑞鳳は私達二人の妹です」



提督「流しやがったな。まあいい。話が進まないから百歩譲って瑞鳳がお前らの妹だとして,なぜ俺の嫁ではダメなんだ?」





瑞鶴「そりゃあねぇ……」



翔鶴「ええ……」



提督「え,何その当然みたいな雰囲気。結構傷つくんだけど」



翔鶴「生理的に無理といいますかねぇ……」



瑞鶴「上司と部下って関係ならまだしも,義理とはいえ提督さんと姉弟になるなんてちょっと嫌ね……」



提督「お前ら俺のことそんなに嫌いだったの? 軽くじゃなくショックなんだけど」



翔鶴「そういう訳じゃないのですが……不思議ですね」



提督「霞とかみたいにクズとか言われないだけマシか……」



霞「何か言ったかしらこのクズ!!」ドアバーン



提督瑞鶴翔鶴「!?」





霞「瑞鳳さんは私達の姉よ。翔鶴さんと瑞鶴さんと言えど,ここは譲れないわ」



提督「加賀の真似をするのが流行っているの? とりあえず執務室に入るときはノックをしなさい」



コンコン ガチャ



提督「え?」



不知火「不知火に落ち度でも?」



提督「無いよ……うん。まさかお前もか?」



不知火「ご明察です。瑞鳳さんは私,正確には私達の姉です」



提督「全く揃いも揃って一体何を……」



霞「瑞鳳さんは朝潮型兼陽炎型の駆逐艦ということで姉妹の中で話がまとまったわ」



瑞鶴「ずいぶん無茶苦茶ね……」





提督「おい待て。今なんと言った?」



霞「はぁ? 聞こえなかったの? 瑞鳳さんは駆逐艦だって言っているのよ」



提督「お前はとんでもないことを言ってしまったな……」



不知火「司令は何を言っておられるのですか?」



提督「お前は言ってはならないことを言ってしまった。仕方がない,お前たちに深海棲艦が生まれた理由を教えてやろう」



艦娘達「!?」



翔鶴「瑞鳳さんが駆逐艦かどうかと言うことと深海棲艦の誕生に,一体どんな関係があるというのですか……?」



霞「冗談も大概にしなさいよ?」



提督「いいから聞け。これから話すことは紛れも無い事実であり他言無用だ。もし破れば解体どころでは済まない罰が待っていると思え」



艦娘達「……」ゴクリ





提督「単刀直入に言おう。深海棲艦の正体は人造人間だ」



艦娘達「!!」



提督「そしてお前たち艦娘も同じ人造人間だ」



艦娘達「……!?」



瑞鶴「一体どういうことなの?」



提督「どういうことも何も事実を述べただけさ。じゃあ聞こう,お前らは自分がどうして生まれたのか考えたことはあるか?」



艦娘達「……」



提督「まあそんなもんさ。普通は自分が何故生まれたかなんて考えたりもしないし,答えを知っている者もいない。もっとも,こんなことは高度な知的生命体にしか関係ないがな」



提督「まあ順を追って話していこう。みな落ち着いて聞いてくれ」





提督「あるところに若き天才科学者がいた。ベタな始まりで悪いな」



提督「勉学に関しては完璧な男であったが,ひどく女にモテず,それが唯一のコンプレックスだったそうだ」



霞「何よアンタ? ふざけているの?」



提督「まあ聞け。性格がひん曲がっていたからか,はたまた顔が悪かったのかは知らないが,男と関わろうとする女性は誰もいなかったらしい」



瑞鶴(火の鳥の猿田博士みたいね……}



提督「そんな男は海を愛し,船がたいそう好きだったそうだ」



提督「そして男はとち狂ったことを思いついた。船を擬人化して自分の嫁にしよう,と」



不知火「司令,それを私達の前で言うのですか?」



提督「すまない,失言だったな。忘れてくれ」



提督「男は人体を構成する物質から,意識のある人間を作り出した。まったくとんだオーバーテクノロジーだよ」



提督「そんな天才の男にも苦手はあったらしく,艤装を作るのは友人の助けを借りたそうだ」



提督「これもベタだが,その友人は唯一無二の親友だったらしい」





提督「そうして最初の艦娘が生まれた。察しの良い奴はわかるかもしれないが艦娘第一号は金剛だったそうだ」



提督「どの鎮守府の金剛も提督LOVE勢と言われていることに納得がいくだろう? 自分の嫁にするべく作った最初の艦娘なんだからな」



提督「だが男は満足しなかった。自分の嫁は彼女ではないと,次々に艦娘を作り出していった。どういうわけか艦娘第二号の比叡は金剛が大好きだがな」



提督「そしてとうとう男が自分の嫁にしたいと思う艦娘が建造された」



翔鶴「それが瑞鳳なのですか?」



提督「その通り。だがここで友人との間に言い争いが起こった」



提督「そう……瑞鳳が駆逐艦かどうかだよ……」



提督「なんとも馬鹿げた話だが,空母らしからぬ見た目に友人は瑞鳳のことを駆逐艦だと譲らなかったらしい」



提督「男はそんな友人の主張を一切聞かず空母だと言いはった。まあそれが正しいんだけどな」



提督「親友だった彼らの初めての大喧嘩。友人はすぐさま荷物をまとめて研究室から出て行ったらしい」



提督「どうせすぐ帰ってくるだろうと男は追いかけなかった。だが友人は帰ってこず,一ヶ月ほど経って深海棲艦の存在が確認されるようになったそうだ」



翔鶴「それって……つまり……」



提督「そうだ。深海棲艦も元はお前らと同じ艦娘ってことだ。先に言っただろう?」





提督「愛する海が侵されて男は憤った」



提督「すぐさま海軍へ行き,ことの次第を話すと男は軍属の研究者になった」



提督「そして海軍の協力を得て,新たな艦娘を次々と作り出した。深海棲艦に対抗するためにな」



霞「ちょっと待ちなさいよ。それなら海で出会う艦娘たちは一体どこから来ているっていうの?」



提督「いいところを突くな。それに関しては諸説あるが最も有力なやつを話してやろう」



提督「友人は男とは反対に生物的なことは苦手だった。研究所を出て行く時に艦娘の作り方のデータを持っていったが,それを上手く扱えていない」



提督「結果として深海棲艦を建造してようとして普通の艦娘も建造してしまう。建造された艦娘を解体するのは忍びないということで海に放している」



提督「こんなところだな」



瑞鶴「納得がいかないわね。そんない人が解体するのを忍びないとなんて思うのかしら」



提督「喧嘩の原因を考えれば不自然じゃない。友人も艦娘が嫌いだったわけではないからな」



霞「どちらにせよその友人っていうのは相当のクズね。アンタ以上だわ」





提督「ははは。あくまで推測だがな。話にはまだ続きがあるから聞いてくれ」



提督「それから男は念願とも言えるケッコンシステムを作り上げた。今で言うケッコンカッコカリだな」



提督「完成当初は練度が最大でなくてもケッコンが出来たらしいが,諸々の事情で今のような仕様になったそうだ」



瑞鶴「諸々の事情って?」



提督「それについてはまたあとで話そう」



提督「そして男はケッコンを果たした。もちろん瑞鳳とな」



提督「だが次の日,男は瑞鳳と心中を図ったらしい」



艦娘達「!?」





提督「理由は定かではないが,愛する海を戦場に変えてしまった自分が許せなかったんだろうと言われている」



提督「しかしながら瑞鳳は艦娘。そうやすやすとは死なない。男も奇跡的に一命をとりとめたが意識不明になってしまった」



提督「男の意識は戻ることを信じて,その瑞鳳は毎日玉子焼きを作って待っているらしい」



霞「じゃあ瑞鳳さんがよく玉子焼きを作っているのって……」



提督「そう,玉子焼きは男の大好物だったそうだ」



提督「これが10年ほど前の話。そして今なお深海棲艦は全滅していない」



提督「同じ惨禍を繰り返さないようにするために,瑞鳳が駆逐艦であるかどうかの議論は海軍で最高のタブーとされているんだ」





瑞鶴「ちょっと待ってよ……理解できないわ……」



提督「この話を聞いてお前らがどう思うかは想像に難くない。だが……話さないわけにはいかないんだ……」



不知火「到底理解できません。何故そんな馬鹿げたことでこんな事態になるのでしょうか」



提督「得てして天才のことなど理解できないのさ……だが俺達は平和のために戦い続けるしかないんだよ……」



艦娘達「……」





大淀「ドッキリ大成功!!!!!!!!!」ドアバーン



艦娘達「は……!?」



大淀「みなさんいい顔していましたよ!!!!」



霞「このクズ,いったいどういうこと?」



提督「大淀がプラカードを持っているじゃないか。ドッキリ大成功だよ」



霞「このクズ!!」



大淀「そんなくだらない喧嘩が理由で深海棲艦生まれた訳ないじゃないですか〜」



提督「みんな騙してすまなかったな。お前らがあまりにも瑞鳳について言うもんだからつい」





瑞鶴「あ〜も〜びっくりした〜。提督さん,真剣な顔をしているから信じちゃったじゃない」



翔鶴「冗談が過ぎますよ?」



提督「すまないすまない。でもどちらにせよこの話は他言無用な? こんな話を考えていたなんて知られたら恥ずかしくてたまらない」



不知火「この不知火がただで許すとでもお思いですか?」



提督「分かったよ。ほれ,伊良湖券と間宮券だ。好きなだけもっていけ」



不知火「司令が話の分かる方で良かったです」キラキラ



提督「ほらお前らにも。いい時間だからみんなで甘味でも食べてこい」



瑞鶴「あら本当ね。じゃあこの券はありがたくもらっていくわ」



艦娘達「〜〜♪」ゾロゾロ





大淀「提督もらしくないですね?こんなドッキリをするだなんて」



提督「たまにはいいだろう。こういうことをしたい日だってあるさ」



大淀「じゃあ私もこの券は頂いていきますね。それでは」バタン



提督「まったく,しっかりしているやつだな」



提督「しかしどうして話してしまったかな? まあ信じる奴もいないだろう」



提督「うっ,長話をしたからかな……急に眠気が……」ウトウト





−−−−−−−−−

−−−−−−− 

−−−−−

−−−





提督「ハッ。つい眠ってしまった……ん?」



瑞鳳「おかえり……あなた……」ポロポロ



提督「どうした瑞鳳,何を泣いているんだ? というかその格好はどうした?」



瑞鳳「ずっと……ずっと待っていたのよ……」ポロポロ



提督「何を言っているんだ? っと,ここはどこだ? 俺はなぜベッドにいるんだ?」



瑞鳳「10年間……ずっと待っていのよ……」



提督「まさか……」



瑞鳳「さあ,私の作った玉子焼き,食べる?」



終わりです

なんとか書き上がったので投下します



--年--月--日

 

今日から私があなたの代わりに日記をつけることにします。



日記は毎日続けることが大事なんだっていつも言っていたからね。

 

夜に,海を見ようって,あなたは私を屋上へと連れて行きました。空は晴れていて夜空の星が海面に映ってとても綺麗だった。



そしてあなたは私を突き落とした。突然のことでびっくりしたけど,振り返って一瞬見えたあなたの目には涙が溜まっていて,何を考えていたのか理解できました。



その直後にあなたも飛び降りてきて,きっと後を追って死のうとしたんだろうけど,あなたは一つだけミスをしていたのよ。



私たち艦娘はあれくらいの建物から落ちたくらいじゃ死なない。艦娘のことを一番知っているのはあなたのはずなのに,そんなことを見落とすなんてとても不思議ね。



結局,あなたは私の上に覆いかぶさるように落ちてきて,私も重傷だったけどなんとかあなたを病院まで運ぶことができました。



私はそのままドックに入ってすぐに完治しましけど,人間のあなたはそうはいかず,奇跡的に一命をとりとめたけれど昏睡状態になってしまったわ。



私はずっと待っているからね。



--年--月--日



とんでもないことがありました。あなたの友人が遺体で発見されたらしいです。



海に浮かんでいて損傷も激しかったけれど,なんとか断定することができたみたい。



あの人について思うことはたくさんあるけれど,あえて書かないでおくことにします。これで深海棲艦はどうなるのかしら……。



--年--月--日



あなたの友人の死から1ヶ月が経ち,その日から深海棲艦の数が増えることはなくなって,今日の午後1時に深海棲艦の絶滅が宣言されました。



私たち艦娘の処遇は決定していないけれど,いったいどうなるのかな……。



--年--月--日



どうやら艦娘は全て解体処分されることになったみたい。さようなら,あなた。



--年--月--日



海軍の偉い人が訪ねて来て,私だけ解体されないことになったと知らされました。



ただ,艦娘であるということは隠して,あなたの世話をすることを条件にされました。



みんなと会うことができなくなるのはとても悲しいけれど,私にはどうしようもできなかった。



--年--月--日

 

あなたが意識を失ってからだいぶ経つけれど,あなたの頭の傷は今も痛々しく残っています。



私の額にも傷は出来てしまっているけれど,鉢巻をしているから平気よ。



−−−−−−− 

−−−−−

−−−







--年--月--日

 

俺は十年ぶりに目を覚ました。日記も十年ぶりにつけることになる。



私が眠っていた間は代わりに瑞鳳が日記をつけていたと言っているが,当然のことながらその日記は見せてくれない。



日記は人に見せるものでないと言っていたのは俺であるから,無理に見ようとは思わないが,やはり気になってしまう。

 

意識を取り戻して最初に目にしたのは泣きじゃくる瑞鳳だった。



はじめは全く状況がのみこめていなかったが,すぐに記憶が蘇ってきた。



そうだ俺は瑞鳳と心中を図ったのだ。



幸か不幸かそれは失敗し俺も瑞鳳も生きていたわけだが。



しばらくして泣き止んだ瑞鳳はこの10年の間に何があったのかを教えてくれた。



正確には俺が意識不明になってから数ヶ月の間のことを教えてくれた。



--年--月--日

 

俺は10年間眠っていたわけだが,その間は長い夢を見ていたことを覚えている。



夢の中では俺は提督で艦娘たちと共に深海棲艦に立ち向かっていた。



どうして私が提督になっていたのかなど,はっきりしたことは全く思い出せないが,俺が提督であったということだけはしっかり覚えている。



人間の脳は実に奇妙だ。人のようなものを作れた俺でも,人間の脳については全く理解できていないようである。



そう考えると,俺が艦娘を作れたということは奇跡に等しいと言えるだろう。



むしろ今の世界が夢では無いかと疑ってしまうときもある。昔は胡蝶の夢など馬鹿馬鹿しい話だと笑っていたが,今では笑えない。





--年--月--日



意識が戻ったということで,精密検査を受けた後,俺は病院を追い出され,瑞鳳は艦娘であるということを口外しないことを条件についていくことを許された。



幸いにも金は銀行に残っていたので,小さな無人島の海辺に家を建て,瑞鳳と一緒に暮らすことに決めた。



--年--月--日



無人島での暮らしは存外悪くない。



無人島とはいえ今の技術なら電気を使うこともできるし,生活に必要なものは船ですぐに買いにいける。



ただ,飛び降りたときにできた頭の傷が目立つので,買い物に行くときは帽子が手放せない。



瑞鳳の額にも傷が残っていて,そのせいか艦娘のときの格好をやめた今でも鉢巻をしている。



女性の顔に傷をつけてしまったことは非常に申し訳なく感じる。





--年--月--日



ときどきあいつについて考えるときがある。



あいつは本当にあんな理由で戦争を始めたのだろうか。



あいつも瑞鳳のことが好きだったのではないだろうか,と。



もちろん考えても答えは分からない。



今,俺はとても幸せな暮らしをしているが,俺とあいつの争いのせいで命を落としたものもいる。



そのことだけは一生背負っていかなければならない罪であるだろう。

終わりです