杏「ゆ、有給休暇って……」



P「ああ、最近頑張ってるしな」



杏「じゃなくって! あの、アレだよね……」ブルブル



P「ん?」



杏「休んでもお金がもらえるっていう……!」



P「……ああ、そうだけど」



杏「やったー! マジでか!」



P(本当はもっと取れるんだが、スケジュールがあるからな)



P「明日からの二日間でいいか?」



杏「いいよいいよ! いやぁ、プロデューサーも、ようやく分かってきたようだね」



P「それと、きらりが現物でハピキャンくれるってよ」



杏「(恍惚)」



P「面白い顔してる場合か」



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P「まあ、休むのも仕事の内って言うしな」



杏「なっ……!?」



P「ん?」





――休むのも仕事! その言葉を聞いた時、双葉杏に衝撃が走った。

自分は働きたくないがために、休みを要求していた。

それがまさか、休みまで仕事だったなんて……!!

あまりの衝撃に、杏は絶望した。この世がすべて、仕事でできているなんて。





P「変なナレーションを入れるな」



杏「だって、そんな、ウソデショ?」



P「まあ、アイドルはまたちょっと違うかもしれんが、壊れるまで走らせるのはブラック企業ってやつだ」



P「繁忙期ならいざしらず、マトモな企業はちゃんと休んで力をつけてもらうもんだ」



杏「休んだ記憶がない」



P「ダラダラしかしてないからだろ……」

翌日。女子寮。



杏「まあ、いいんだけどさ」



杏「積みゲーだってあったし、食う寝る遊ぶでお金がもらえるなんて夢のようだよ」



杏「とりあえず、普段の仕事し過ぎて早起きしちゃったけど」



杏「プロデューサーのモーニングコールもないし、なんて幸せなんだろう」



杏「こんな日はまともに食事もしないで、飴ちゃんを舐めてゴロゴロするに限るよ〜♪」



杏「……」 ゴロリン



杏「むう、ツッコミが入らない」



杏「ふーん、とりあえず借りてきたビデオ見ちゃうんだもんねー」

杏「ふう、『シュガー・ラッシュ』は面白いなぁ」



杏「ヴァネロペちゃん、かわいいし、お菓子まみれだし」



杏「これだけ才能があるキャラだと嫉妬されちゃうのも致し方なしだよね」



杏「まさに杏のようだよ」



杏「……」



杏「ちっ、ツッコミが入らないと、また『独り言が多いアイドルNo.1』を獲得しちゃうじゃないか」



杏「プロデューサーがCDでアレを収録するから……」



杏「暫定二位は小梅ね」

杏「……」ピコピコ



杏「よしっ、これで2面クリアー」



杏「お金をもらってると思うと集中力が増すね」



杏「そして……」バリッ



杏「ん〜、飴ウマー♪」



杏「気兼ねせずに飴が舐められる幸せ」



杏「たまらないね」



杏「やっぱり今のイチオシは男梅だよね」



杏「塩系は狙いすぎだし、そんなに汗かいてない人がバリボリ食べてそうだからちょっと」



杏「塩分摂り過ぎもどうかなって思うよ、うん」

杏「ふぅー、キリがいいからこのへんで止めておこう」



杏「ちょっとお腹すいてきたし、キッチン行ってこよう」



杏「寮だから、みんな結構ジュースとか置いてあるに違いない」



杏「えっと……」トントン





菲菲「杏さん、おはようダヨー」



杏「おおっ、菲菲。なんでいるの?」



菲菲「今日は学校も仕事もお休みダヨー」



杏「あ、そうなんだ」



菲菲「杏さん、まだ朝ごはん食べてないネー?」



杏「う、うん」



菲菲「じゃあ、菲菲が炒飯つくるよ!」



杏「マジで?」グー

菲菲「おいしいですカ?」



杏「いやぁ、漬物でも置いてあればいいと思ってたんだけど」



菲菲「杏さんは食事に偏りがありすぎダネ」



杏「そんなことないよっ」



菲菲「隙があれば飴舐めてるネー」



杏「体は飴で出来ている」



菲菲「そんなだから、プロデューサーさんから心配されるネ」



杏「そうなの?」



菲菲「見かけたらちゃんとご飯食べさせてくれって」



杏「……。うるさいなぁ」



菲菲「ちょっと嬉しそうネー」



杏「嬉しくないし」

菲菲「あれ、そういえば、今日は杏さん、どうしてここにいるネ?」



杏「ふっふっふ」



菲菲「ついに見放されたカ?」



杏「違うっ! 有給休暇!」



菲菲「ユーキュー?」



杏「そう、おやすみしてもお金がもらえる、素晴らしい制度なんだよ!」



菲菲「ああ、なるほど、聞いたことあるネ」



杏「ん?」



菲菲「香港だと会社がお休み取らせないといけないネ」



菲菲「ちゃんと自分からお休みを取ってくれるのが良い社員ネ」



杏「」ビッシャァアン!!



杏「つ、つまり……」



杏「杏は、有能だったのか……」



菲菲「毎日お休みを要求するのとは別ネ」

菲菲「そういえば、プロデューサー、このところ忙しくしてたネ」



菲菲「杏さんのお休みを作ってあげるためだったんダネ」



杏「そ、そうなの」



菲菲「杏さん、人気だから、お休み作るのも大変ネ」



菲菲「フェイフェイも見習いたいヨー」



杏「うーん、そしたら一緒にゲームでもやる?」



菲菲「これから出かけるつもりだから、ごめんネー」



杏「そっかー」



菲菲「じゃあ、ちょっと行ってくるネー」



杏「ほーい」

杏「そっか。プロデューサーは、杏のために頑張ってくれてたんだねぇ」



杏「でも、それならもっと考えて、引退して印税で生活出来るようにすべきじゃないかな?」



杏「そうだよ!」



杏「今度、バラエティ番組で、失敗したら引退とか、そういうのをやろう!」



杏「……でも、アイドルを引退してもインド映画とか撮りそうな予感がする」



prrrr



杏「おっ」



杏「はい、ひなた荘」



ちひろ『あっ、もしもし、杏ちゃん?』



杏「そうだけど」



ちひろ『もしかして、今って寮には……』



杏「……杏しかいない」

ちひろ『あちゃあ、参ったわ』



杏「何か忘れ物でしょ」



ちひろ『そ、そうなの〜、誰かに持ってきてもらおうと思ってたんだけど』



杏「あ、いーよいーよ、杏行くよ」



ちひろ『……でも、お休みでしょう?』



杏「ちょっと満喫して遅めの朝食を食べたところだから」



ちひろ『楽しんでますね』



杏「あはは、それに、プロデューサーに言いたいことあったし〜」



ちひろ『あら、でも、プロデューサーさんは外に出て行ってますよ』



杏「全然待つ待つ〜」



ちひろ『……うーん、お休みしている子を使うのは』



杏「いいからいいから」



ちひろ『……そう? ごめんなさい。それじゃ、多分、談話室のところに置いてあると思うんだけど……』

杏「――これでよし」



杏「ふっふっふ。とりあえず、お届け物に加えて、スタドリも買っていこう」



杏「これでお疲れ様っとやれば」





P『な、なに、あの杏が俺を労ってくれたのか?』



P『しかもわざわざお休みの日に!』



P『感動した! 今すぐ引退していいぞ!』





杏「……というのはさすがにないだろうけど」



杏「あのプロデューサーが、わざわざお休み作ってくれたってことは、もっと優しくしてくれる可能性があるよね」



杏「ほ、ほら、相手がデレてくれたんなら、こっちもそれに応えないと」



杏「よっしゃ、行くぞー」

――事務所。



杏「……ふっ。自ら事務所に足を運ぶとは」



杏「ま、まあ、仕事じゃないと思ったらこんなもんよ」



杏「おやすみ、バンザイ、杏、自由」ガチャッ



ちひろ「あら、杏ちゃん」



杏「やっほー、ちひろさん」



ちひろ「本当にごめんなさい」



杏「はい、これ。お届け物」



ちひろ「ありがとう、これでなんとかなるわ」



杏「んじゃ、ちょっと奥のほうでくつろいでるよ」



ちひろ「えっと、どうするの……?」



杏「プロデューサーが来たら呼んでね〜」



ちひろ「あっ、はい」

杏「ふっふーん」カパッ



杏「いやあ、いいね。実にいい」ピコピコ



杏「わざわざ事務所にきて働かずに済む」



杏「これほどの幸せが他にあるだろうか」



杏「……」



杏「ま、まあ、寮に居続けても飽きてきたってだけなんだけどね」



杏「ほら、プロデューサーだって頑張ってるわけだし」



杏「たまには私が褒めてあげないと」



杏「お休みは有効に使わないとだし、杏、有能」



杏「〜♪」

――10分後。



杏「……んっ、この」





――30分後。



杏「……てい、うりゃ」





――60分後。



杏「ふー。ハードモードはやっぱり難易度上がるなぁ」



杏「当たり前だけど」



杏「……プロデューサー、まだか」

杏「……よしっ、これで、クリアッ……!」



P「おい」



杏「…………あ」



P「事務所で何やってんだ」



杏「あ、あはは、驚いた? いやー、実は」



P「……」バッ



杏「あ、3DS……」



P「お前、今日お休みだろ」



杏「や、そうだけどさ」



P「ちゃんと休んでほしいからって設定した日に、遊びで事務所に来るんじゃねぇ」



杏「……」

ちひろ「あの、プロデューサーさん……」



P「今、杏と話しているんで」



杏「……」



P「別に恩を着せたいわけじゃないが、スケジュールを空けるのって大変なんだよ」



P「みんながお互い助けあってやってることなんだ、それくらい、分かれ」



杏「……」



P「……分かってるのか?」



杏「……」コク



P「よし、だったら今日はもう帰れ」



P「この後、この部屋で取材を受ける予定だから、準備をしないといけない」



P「明日も休みなんだから、しっかり休んでくれ」



杏「……うん」

P「……キツく言って悪かった」



P「だけど、言わなきゃいけないことだから言ったんだ。いいな」



杏「……」



杏「……プロデューサー」



P「なんだ」



杏「……」



杏「……ごめんなさい」



P「あ、ああ」



杏「……」キィ



P「……」

――



杏「……」



杏「……」



杏「……」



杏「あー……ゲームでも、しよっかなー……」



杏「明日も、休みなんだし……」



杏「……」



杏「うっ……」



杏「うう……」



杏「うぅぅ〜」ポロポロ

杏「ぐすっ、ひぅっ」



杏「ばか……」



杏「余計なこと、しなければ良かったのに……」



杏「……」



杏「うっ、ううっ」





シゴトデンシャツーキン!



杏「……!」

杏「……プロデューサー」



杏「えいっ」ブチッ



杏「……」



メメメメメデー!



杏「うっ、二回目……」



杏「ばかっ、しらない……」



杏「……」ブチッ



杏「……」



ハピハピ!



杏「……メール」

杏「いいや、もう」



杏「……」



杏「……」



バタン



杏「……うひょーい、お休みを満喫するぞ〜って、もう夜だし〜」



杏「ニコニコでポイント買ってコブラでも見るか」



杏「……」



杏「……いいや」

――……

ヴーンヴーン、ヴーンヴーン



杏「……はっ」



杏「あ、あっ、モーニングコール……」



杏「じゃなかった、メール、か」



杏「……」





「P>無題

 

すまない、ちひろさんから聞いた。

わざわざ届け物をしてくれたんだな、ちゃんと話を聞かない俺が悪かった。」





杏「違うって……」



杏「ワガママ言いに行っただけだし……」





「時間が立て込んでいて気が立っていたこともあるが、あんな言い方はなかった。

こちらのミスだ、許してくれ。



明日こそ、ゆっくり休んで、元気になってくれ」





杏「……」



杏「……ば、バカだなぁ、プロデューサーは」



杏「ばか、ほんと」

杏「……」



杏「……ん」



杏「よし」



杏「……」prrr prrr



杏「……」 ピッ





P『……はい。杏か』



杏「……ん」



P『……昼間は、悪かった』



杏「いいよ、杏の方が悪かったし」



P『いや、ちひろさんから取材の後で聞いたよ。ごめんな』



杏「や、届けた後、事務所で遊んでたのは事実だし……」



P『……そうか』



杏(あっ、怒られるかな)

P『まあ、なんだ、その……』



P『良いことじゃないからな。真似されたら困るし』



P『だけど、なんだ……』



杏「反省してる」



P『…

P『……なら、いいよ』 ホッ



杏「はい」



P『……あー、え? なんですか?』



杏「どうしたの」



P『ちょっと待ってくれ……いやあの、急にそんなこと言われても……』



杏「……?」



 イイデスヨ イヤコマルッテイウカ イッテキテ



杏「何してんの」



P『……』



P『すまん、杏。明日、なにか予定あるか』



杏「……? ないけど」



P『だったら、お、お前が良ければ、デートでもするか』



杏「はい?」

(これ今日中には終わんねぇな)



――翌日。



ブロロン。



P「おはようございます」



杏「おはよう」



P「とりあえず、車に乗ってくれ」



杏「プロデューサー」



P「なんだ」



杏「普通の人はデートにスーツを来ないと思います」



P「一張羅がこれしかないから仕方ないだろ」



杏「えー、冷めるー」



P「……クソ」

杏「ちひろさんに言われたからって、現役アイドル相手にデートを申し込んでおいて〜」



P「……まあ、昨日の罪滅ぼしみたいなものだから」



杏「そういう発言はどうかと思うよ、うん」



P「現役アイドルとデートが出来て涙がでるほど嬉しいです」



杏「あっそう」



P「……」



杏「それより、休み取れたんだ」



P「ちひろさんが無理やり……最初から食事くらいは誘ってあげたらとは言ってたけど」



杏「ふぅん」



P「いいから乗れ。さっさと行くから」



杏「まずはプロデューサーの服を買わないとね」



P「要らんわ」

――車中。



杏「……」



P「……」



杏「……あ、あー、昨日は」



P「えっと……」



杏「な、なにかな」



P「いや、お前こそ」



杏「……昨日はごめんね」



P「いや、こっちも悪かった」



杏「……何回言うのコレ」



P「俺も思ったよ、もう今日はこういうのナシにしような」



杏「うん……あ、プロデューサー、あっちだよ、服屋」



P「し○むらでいいだろ」



杏「えー、ないわー」

IN 服屋。



P「これでいいだろ」



杏「ない」



P「何が悪いんだよ」



杏「夏だからって気を抜き過ぎだよねー」



P「お前……」



杏「アイドルをプロデュースするシゴトをしているのに、自分はプロデュース出来ないとか(笑)」



P「言ったな、よし」クルッ



杏「負けず嫌いは扱いやすいですなぁ」





店員「お兄様ですか?」



杏「そーなんですよ、趣味が悪くって」



P「勝手に身内に入れるな!」

IN 甘味屋。



P「パフェるぞ」



杏「プロデューサーが甘いもの好きとは知らなかった」



P「イベントでハロウィンだのバレンタインだの経験してれば自然と好きになる」



杏「かえって嫌いになると思うんだけど」



P「まあ、俺にも苦手なものはあるよ」



杏「なに?」



P「甘すぎるのはダメ。やっぱり酸味が効いて、甘みが引き立つタイプの方がいい」



P「だからスペシャルいちごパフェだ」 ドン



杏「スペシャルのボリュームで引き立つもクソもないと思う」



P「……なんか今日は攻めるな、お前」



杏「そう?」

P「そういうお前はなんだよ」



杏「キャンディキュートパフェ!」



杏「砕いたキャンディで食感と味わいを面白くしたクリームパフェなんだよ!」



P「まずそう」



杏「何を言ってるのかな? モニュモニュした食感を続けてれば飽きるじゃん」



杏「その点、飴は舐めたり噛んだりして楽しめる、スゴイ」



P「クラッカーとかでいいだろ」



杏「はぁ……ダメダメだね、プロデューサー」



P「どういうことだ」



杏「クラッカーじゃ湿気ちゃうでしょ。かき氷ならいざしらず、食感ならもっと別のものだよ!」



P「……それもそうか」



杏(お……)

IN 水族館。



杏「疲れた」



P「車の中で爆睡してただろ」



杏「移動しながら寝ると疲れるよね」



P「……」



杏「それにしても、水族館ね……」



P「やっぱり夏場に外に行くなら涼しい方がいいだろう」



杏「そもそも外に出たくないんだけど……」



P「働かなければ休む大事さはわからないだろ」



P「涼しい部屋でゴロゴロしているのと、涼しいところへ遊びに行くのとでは、また違うと思うぞ」



杏「たまに仕事のために休んでるのか、休むために働いてるのか分からなくなるよ」



P「言うほど働いてないだろ」

スタッフ「お二人様ですかー? お写真サービスでお撮りしてますよー」



杏「ん」スッ



P「ポーズを取るな。あ、結構ですから」



スタッフ「あ、ちょっと」



杏「なんでー? 思い出思い出」



P「お前……一応、アイドルという自覚は……」



杏「あっはっは、こんな平日に寂れた水族館に来てるアイドルなんていないよ」



P「だからって何してもいいてワケじゃないんだぞ」



杏「……うん」



P「う……」

P「あー、クソッ、さっさと奥に行くぞ!」



杏「なにー? じっくり見るもんじゃないの」



P「いや、そろそろ大水槽の餌やりがあるから、とりあえず」



杏「強引だなぁ」



P「文句があるなら背負っていってやるから」



杏「あ、そ、そう?」



P「……疲れてるんだろ?」



杏「そうだけど……」



杏「……まあ、そこまで下僕振りたいなら、ちゃんと応えてあげないと、逆に失礼だよね」



P「誰が下僕だ」

杏「おー、これがきらり視点か」ユサユサ



P「そこまで高くないだろ」



杏「プロデューサーはきらりの身長いくつだと思ってんの?」



P「ロッドマン」



杏「2メーターじゃん! あり得るわけ無いじゃん!」



P「でも、俺よりあるんだぞ、あいつ」



P「っていうか、よく知ってたな」



杏「プロデューサーは女の子に失礼だよね。無神経だよね」



P「……そうかな」



杏「そうだよ。私はほら、ちょっとタフだから、言われても平気だけどさ」



P(タフなやつが涙目になるわけないだろ)

杏「あれ、なにー? プロデューサー」



P「チンアナゴだ。割りとどこの水族館でも飼っていることが多い」



杏「ふーん……」



P「穴に引きこもって、潮の流れに乗ってやってくるプランクトンを捕食して生活している」



杏「杏みたいって言いたいの?」



P「何も言ってないだろ。まあ、ちょっとカワイイから、商品化も結構進んでいるしな」



杏「杏みたいって……」



P「照れながら言うなよ」



杏「照れてないし、別に」



P「……まあ、水族館って一度流行ると燎原の火の如くパクりが広がるからな」



P「くらげの展示がヒットすればどこでもクラゲやるし。一世代前だとクリオネとか」



杏「あー」

杏「でもさ、どこでも取れるワケじゃないじゃん?」



P「そうだな」



杏「じゃあ、やっぱり、どこかから買い付けしたりするものなの?」



P「そりゃそうだろ」



P「……水族館の生き物だって死ぬからな」



P「だからと言って、水槽を空けとくのは勿体ないし、いろいろ考えるんだよ」



杏「ふーん、鬼畜だね」



P「全くだな。だから、俺は逆に好きなんだ」



杏「ぷ、プロデューサーは鬼畜で悪魔だったのか」



P「うん?」

P「というか、お前な」



杏「なに〜?」



P「今更だけど、表でプロデューサーって連呼するなよ」



P「なんかアレな人に思われるだろ」



杏「じゃあ、なんて呼べばいいの?」



P「おい、とか、お前、とか」



杏「……お兄ちゃん♪」



P「」ドサッ



杏「ふぎゃあ!」



P「やめろって、マジで」



杏「い、いきなり手を離す方をやめるべき!」



P「ほれ、大水槽だぞ」

大水槽。



杏「おお〜、涼しい〜♪」



P「感想はそこかよ、まあ、大きい分、クーラーもガン回ししてるからな」



杏「おお〜、見てみて、こいつ」



P「なんだ……」



杏「寝っ転がってる、魚のくせに」



P「ああ、ネコザメだな」



杏「魚ってずっと泳いでいるイメージがあったけど」



P「そういうのは回遊魚って言うんだ。マグロとかそういうの」



杏「ふーん」



P「マグロだって休んでいる時はゆっくり泳ぐぞ」



杏「結局泳ぐんじゃん」

杏「あはは、折り重なってる」



P「見ろ、自分がいちばん楽な格好で寝たいから、次から次に乗りかかっていく」



杏「おー」



P「でも、下にいるやつは寝苦しいから移動する」



杏「むー」



P「……で、今度は自分が上に乗りかかっていく」



杏「あっはっは!」



P「交代で休む方が合理的なんだ……どうだ?」



杏「穴倉で休めばいいんじゃないかな」



P「お前、鋭い指摘だな。実際、隠れられそうな穴を見つけて寝ることも多い」



杏「休むことに関しちゃ一流だからね!」



P「おう、誰も褒めてないぞ」

スタッフ『それでは今から、大水槽の餌やりタイムを行いまーす!』





P「おっ、始まったな」



杏「おー、もう、来るだけで寄ってきてるじゃん」



P「反射的なものもあるからな」



杏「おー」



P「ぶわーっと撒いたな」



杏「おー、すげー」



P「さすがに大水槽だと圧巻だな」





スタッフ『何か質問はありますかー?』





杏「はーい」



スタッフ『お、そこの小さなお友だち』



P「くふっ」



杏「おい」

杏「水族館の魚って共食いしないんですかあ?」



スタッフ『いい質問ですね。実は、水族館のお魚は、こうしておいしい餌を食べられるので、あえて他の魚を食べる必要がないんですね』



スタッフ『みんなも、お腹がいっぱいになったら、あえてそこら辺に落ちている物を食べたりしないでしょ?』



杏「別腹はあるんじゃないかなぁ……」



P「お前の飴は主食だろ」



杏「そういえば、そうか」



スタッフ『弱った魚の中には、どうしても食べられちゃう魚も出てきます』



スタッフ『また、自然環境に近い形で、体型を維持したりするために、餌を制限したりすることはあるんですよ』



杏「へぇ〜」



P「魚もダイエットするわけだな」

杏「いやぁ、いいねぇ、水族館の魚は」



P「なんだよ」



杏「食う寝る遊ぶ。全部揃ってるわけじゃん」



杏「生活が完璧に保証されてるし♪」



P「そうきたか……」



杏「杏も魚だったら……」



P「刺し身か唐翌揚げにされるな」



杏「いやいや、水族館に行ったらの話だよ?」



P(釣った魚をその場で食べる水族館もあるんだが……黙っておくか)

車中。



杏「はふぅ」



P「ご満悦だな」



杏「とりあえずガシャポンを大人買いしてコンプリート出来たから」



P「そんなに面白いか? これ」



杏「とりあえずコンプリートすることに意義があるんだよ!」



P「ま、まあ、喜んでもらえたなら何よりだ」



杏「……あっ、ゲーセン寄ろ、ゲーセン」



P「え? まあ、まだ時間あるが……」



杏「はよはよ」

――ゲーセン!



杏「おっし、ようやく勘が戻ってきたわ」



P「お前、何プレイするつもりだよ」



杏「いやぁ、通信環境が整備されてくると、わざわざゲーセンに行く必要がなくなるじゃん?」



P「……知らん」



杏「でも、やっぱりこういう場所に来て、遊ぶって大事だよね」



杏「ライブを生で見るのと、動画配信で見るのじゃ違うじゃん」



P「まあ、そういうたとえなら分からなくはないが」



杏「おまけに、今日はプロデューサー持ちだし〜♪」



P「……。まあ、いいんだけどよ」

P「まあ、でも、いい加減帰るぞ、そろそろ」



杏「ええ〜?」



P「……。よし、じゃあ、ほらあれ、UFOキャッチャー」



P「アレで俺がなんか取ってやる」



杏「ほほう」



P「それで締めにしよう」



杏「ま、まあ、プロデューサーがそこまで言うなら」



杏「プレゼントしてくれるなら、もらってあげないでもないですし」



P「誰も上げるとは言ってない」



杏「あっ?」



P「いや、あげるけどさ」

一投目。



P「えーと、①が左右、だったな……」



杏「んん?」



P「こう、か。おっ」 ウィィン ガシャ

 

P「……」



杏「外れたね」





二投目。



P「ボタンを押してる間だけ移動……」ブツブツ



杏「プロデューサー。もしかして」



P「しっ。静かにしろ」 ウィィィィィン…… ガシャ



P「あっ!?」



杏「……」



P「……」



杏「……やったことないんだね?」

P「いやほら、な。今日はさ、ご機嫌取りしたいわけじゃなかったんだけど」



P「杏とモヤモヤしたくなかったんだ」



P「だから……なんか、最後にプレゼントでもしてやって、気持よく帰れればいいと思ってだな」



杏「……ははあ」



P「……今日、どうだった? 楽しかったか?」



杏「……」



P「なんか仕事なら、こうやったらファンが楽しむだろうって思いつくんだけど、杏相手じゃどうしたらいいか分からなくなるから」



P「なんていうんだ、厳しい顔みたいなのになっちまいがちで」



杏「……ぷふっ」



P「笑うな」

杏「はい、どいた」



P「な、なんだよ」



杏「こういうのは無理につかみを狙うよりか……」 ウィィィィィン



杏「アームを当てて、積んであるのを崩すだけでもいいんだよん」



ガッコン



P「おお……」



杏「ほら、取れた」



P「自分で取ってるじゃないか」



杏「うん」

杏「杏、ほしいものは自分で取れるし」



杏「ほしいぞーって時は自分で言ってるし」



P「ああ……まあ、そりゃな」



杏「だから、無理にいろいろくれなくても大丈夫だよ」



P「……」



杏「その代わり、もっと、優しくしてほしいなぁ〜って……思う?」



P「そうか」



杏「うん」



P「……」



杏「……昨日のも」



P「うん?」

杏「プロデューサーに、スタドリでも持って行って、労ってあげれば」



杏「もっと優しくしてくれるかなぁって思ったから、来ちゃったんだけど……」



杏「ちょと失敗しただけだし」



P「……」



P「……そうか」



杏「だから、気にしなくてもいいし」



P「分かった」



杏「……」



P「ありがとうな、杏」 ナデ



杏「うん」

P「じゃあ、明日からまたよろしく」



杏「うっ、そういえば、仕事か……」



P「何寝ぼけたことを言ってるんだ。ライブツアーに向けて休みなしだぞ」



杏「!?」



P「お前、スケジュール見てない……」



杏「き、聞いてないんだけど」



P「なんのためにわざわざ二日もお休み取らせたと思ってるんだよ」



杏「ぷ、プロデューサーが菩薩化したからじゃあ……」



P「何をワケの分からんことを」



杏「あ、あー、休みなしってどうなのかな? ブラックじゃないのかな?」



P「ライブツアー終わるまでの話だ」



杏「アーッ、杏、体調が悪くなる予定だから!」



P「管理しろ!」

杏「いやだぁ! 結局、遊び倒して休んでないじゃないか!」



P「お前、そういうこというか?」



杏「え、延長を申し込む!」



P「ノーに決まってんだろ、俺はともかく、やりくりして二日空けたんだぞ」



杏「うわああ、こんなトラップが」



P「ちゃんと今日の分は給料出るからいいだろ」



杏「もっと! もっと二人でダラダラするんだい!」



P「ええい、ワガママを言うんじゃね―!」



杏「ワガママじゃない、当然の権利行使!」



P「今日使っただろ!」



杏「――! ――!」



P「――、――〜〜!!」





おっしまい。